感じる心を育てよう。表現する力を育てよう。
五感を使って即興演奏(ピアノレッスンの現場から)
はじめに
黙々と白木の積み木で遊ぶ5歳の娘。「ママ、積み木って生きているの?」娘が口にした言葉でした。ある日の保育園での光景、保育園児たちはでは大雨の翌日長靴で散歩に出かけ、子ども達は泥んこ道を進む中、大きな大きな水たまりを発見!のぞき込みながら「先生!お空がここにもあったよ!」「お友達がここにもイッパイいるよ!」満面の笑顔と歓声が3歳児のクラスの子ども達から上がります。子どもを取り巻く環境はますます難しい時代を迎える中ではありますが、幼児期の持つ感性やイマジネーションを膨らまし考えたり感じたりする心は、大人が大事に受け入れ共に分かち合い育んでいきたいものです。
私たちは、美しい自然に感動したり、素晴らしいものに出会い感銘を受け感激したりします。子ども達の発するようなカワイイ言葉の表現は出来ないまでも、言葉では言い尽くせないほどの感情・思いは日常の生活の中にも存在しているはずです。しかし今、そのような出来事に感じる心が鈍感になってきているような気がいたします。大人も子どもも…。
なぜ鈍感なのか、一言で言うならば「稀薄である」ということなのではでしょう。自分の思いや気持ちを伝えるその情熱や意識が薄れてきていること。また、自分の思いと同じぐらい相手にも感情があり、人間は自然や人や様々なものと関わって生きているということを忘れかけていることに大きな問題があると私は思います。
音楽教室では、ここ数年子ども達の演奏表現レベルは低下してきています。技術面においても感情表現能力においても、がむしゃらに夢中になって突き進むエネルギーが伝わってこないのです。勿論それは表出されていないだけであって、内面的には多くを感じ表現していると言えるかもしれません。
しかしながら、全体として、同じ傾向が続いていることを考えると、やはり社会環境の影響は大きいのではないかと考えざるを得ません。
人の心はそう簡単に変化を遂げるものではありません。日々の生活体験を重ねる中で、自分自身が心を開き感じ取っていき培われていくものですが、様々な現場において、このような問題を早期に且つ具体的に、解決の糸口になるプログラムとして参考にしていただければと思います。
1.気持ちを表現する大切さ
子どもたちの世界は、いつも生き生きとして新鮮で美しく、驚きと感激に満ちあふれています。残念な事に、わたしたちの多くは大人になるまえに澄みきった洞察力や、美しいもの、畏敬すべきものへの直感力をにぶらせ、あるときはまったく失ってしまいます。(中略)生まれつきそなわっている子どもの「(美しいもの・未知なるもの・神秘的なものに目を見張る感性)センス・オブ・ワンダー」をいつも新鮮にたもちつづけるためには、わたしたちが住んでいる世界のよろこび、感激、神秘などを子どもと一緒に再発見し、感動を分かち合える大人が、すくなくともひとり、そばにいる必要があります。(中略)わたしは子どもにとっても、どのように子どもを教育すべきか頭をなやませている親にとっても、「知る」ことは「感じる」ことの半分も重要でないと固く信じています。子どもたちがであう事実のひとつひとつが、やがて知識や知恵を生みだす種子としたら、さまざまな情緒やゆたかな感受性は、肥沃な土壌です。幼い子ども時代は、この土壌を耕すときです。
レイチェル・カーソン著『センス・オブ・ワンダー』より抜粋
最近のテレビや新聞の殺傷事件の報道を見るたび「なぜ、そこまで…」と思う中、「加害者の全てを受け入れ、感激を分かち合える存在が一人でもいなかったのだろうか…」と悲しみを覚えもします。
オフコース(グループアーティスト)の歌の中に「la-la-la言葉にできない~」というフレーズがあります。
人は「美しいものを美しいと思う。」それはその人自身の心で思っていればあえて言葉や形に表さなくても良い、というよりは、あえて形や言葉に変えてしまう思いが半減さえしてしまいそうな気もいたします。しかし「言ってくれなきゃ分からないよ!」「そう嫌そうな表情でもなかったよ」等、相手にはどんな形でもかまわないから(表情でもジェスチャーでも相手の手を握るでも、絵や音で伝えるでも)表現して伝えてみないと自分の気持ちを汲んでもらえない事があります。理解してもらえない事が継続すると自分の殻にどんどん入り込んでしまい出口すら分からなくなってしまうことにもなりかねないでしょう。
最近では「心の教育」と騒がれ、カリキュラムに組み込んでいく傾向もあるようです。「心」の問題を語り始めると、乳幼児期の発達心理にまでさかのぼる必要もでてきますし、一人一人個性がある以上、一概に方法論のみで、解決できないところがありますが、ただ、子ども達の心を育てるには、学校の授業の中や、家庭教育の中だけで行われる事では決して解決出来なく、今こそ様々な分野(地域社会・お稽古事・子どもの集う集団活動等)での関わり合いを大切に、日々生活の中での些細な出来事と思われる体験の中で周りの大人が見守り、地道に少しずつ時間をかけてこそ育くんでいく必要があるのではないかと思うのです。
2.楽器との対話、それは自分自信との対話
楽器は自然の恵みから生まれました。最近でこそ楽器メーカーによって電子楽器に作り替えられている物も存在していますが、私達は奏でることで常に自然との対話をし、自分や聞き手の心を和ましてくれています。冒頭でふれましたが、たとえばピアノであるならば、元の素材である「木」の形は無くなったとしても、湿気の有る無しで音色も変わったり、常に息づいていることを実感します。
また、気持ちの荒れている時に奏でた曲はそのように音として返ってきますし、情感込めて気持ちに集中出来たときの演奏は聴衆を魅了することは勿論のこと、なにより演奏者本人の満足感たるや、言葉に言い表せないほどのものであることは、演奏するものであれば誰でも経験していることと思います。
3.豊かな演奏とは
さて、私達が子ども達に指導する中で、「内に秘めた気持ちが音に出てくれないものだろうか…」どの指導者でも悩むところなのではないでしょうか。
ピアノを上達させるためには練習も必要です。テクニックや読譜の能力も育っていなっければなりませんし、その子その子のよって学習のペースは違ったとしても必要です。ただ、これらは学習者の根気(笑)と、指導者の教える工夫があれば、なんとかクリアしていける課題であります。
しかし、テクニックが優れや読譜が早く音が並ぶ、それだけではけして上達とは言えません。一番必要なこと、それは決して目で見えるものではなく、一番触れにくい所にあることで指導者は試行錯誤するわけです。
それは「感じる心を養うこと」「感じたもの・心をいかに音に反映させることが出来るか」ということであります。「弾けてはいるけれど、仕上げとするには何か足らない」このような事に思い当たる生徒さんがいた場合には、やはりその部分を何らかの方法でトレーニングをし、育てていく事が出来たならば、きっと素晴らしい演奏を聴かせてくれる生徒さんに育つことでしょう。
4.活動例
【五感を使って即興演奏】
タッチ感覚を養い表現能力を育てるイメージ即興
(ピアノレッスンの現場より)
- 絵本『木のうた』(イエラ・マリさく)からのアプローチ
この試みは、単に結果の出来映えを評価するものであるべきではなく、子ども達同士自らが考え、自分たちのイメージを形に残し表出してみることが、一番の大きな目標です。「自分たちが考え、試行錯誤したものを形に残せた。考えれば必ず答えが出るのだ。」このような経験を積んだ子ども達は何をするにも決して考えることを止めません。常に学習する意欲が湧いてきます。また、そのような環境を大人に与えてもらえたことで、与えてくれた社会にたいしての大きな信頼感を持つことへとも繋がっていくのです。また、イメージ即興というと、すでに出来上がっているもの(グラフィック楽譜や絵画、詩などの言葉など)をダイレクトに自分の思うがままに音に変換します。その際、「自由に弾きなさい…」という言葉に大人でも困り果てることがあります。「自由ゆえの不自由さ…」音楽をすることに最も重要なイマジネーションを働かせ、絵本より感じ取ったものを楽譜に再現させ、音にすることで定着させ感情を形として残す。その思い出は心に刻まれる。ここでは音は五感でとらえていることをもっと子ども達に意識を向け、それぞれの感覚を分析し、自らの意志により、音色やタッチにより反映できるよう楽しく即興活動を拡げてみたいと思います。
- 〔実施日時・活動内容〕
- 2004/06/2(wed)pm3:30~5:00ウォーミングアップ・描く譜の作成
- 2004/06/20(wed)pm3:10~4:20描く譜を元に“触れるイメージ譜”の作成・楽器で即興演奏
- 〔グループ構成〕
- 小学1年生3名(年中より2名レッスンスタート、年長より1名入学)
グループレッスンとパーソナルレッスンを交互に行っている。幼稚園・小学校共に同じで日頃から遊ぶことも多く仲良し組。
- 〔6/2レッスンカリキュラム〕
気配を感じよう
交代で、一人が目をつぶりもう一人が身体のそばで、音を鳴らす。何処でなっているか当てっこゲーム。
3人で輪になり言われた身体の部位を付ける(目を開けたまま・目をつぶって)
ニュアンス伝言ゲーム
素材の違うもの(固い・柔らかい等)を3コ用意。1列になり一人は3コの中より心の中で一つ決め、相手の身体に触れてそのニュアンスを伝える。伝えれた人はピアノのまえの子に同じ方法で伝える。(言葉や声は今回は無し)最後にそれをピアノの音で表現。それぞれ、どれを思って伝えたか同時に答える。
絵本からのアプローチ・1
『木のうた』の本を見る。
今の季節はどのページか考える。
どんな音や、におい、肌合い(風・日差し・体感温度等)がどんな様子かを項目事に書き出してみる。
“描く譜”ピアノで即興。
- 〔6/23レッスンカリキュラム〕
絵本からのアプローチ・2
前回の描く譜を元に“触れるイメージ譜”を作成する。(素材は色々違う触覚のものを出来るだけ多く揃えておく)ピアノを使用し、即興演奏をする。
でーきた!!!!!