南大東島からの報告 サトウがつくられる音たち
〜サトウキビからサトウへ〜
私は沖縄本島から東へ400km離れた南大東島に音の調査をしに来ている。サトウキビを刈り取り、工場で砂糖が作られる製糖期に訪れるのは初めてである。私は、2年前に島の人に行った音のアンケート調査で、製糖期に入ると島の音風景はがらりと変わることを知ってから、製糖期の南大東島を訪れることをとても待ち望んでいた。
島の人は、大型収穫機のハーベスターの音をこう表現する。『ゴゴゴーゴー』『収穫機のキビをバリバリと飲み込むような音』『サトウキビの収穫機の音バッバッバッそして、甘い香りが広がる』私が初めてハーベスターの音をきいた時は、それはもう洗濯機と車と扇風機のあらゆる電気機器が合体してうなっているようで、『ドンガラガラバリバリ~』とサトウキビを吸い上げては葉っぱを吐き散らす。オペレーターに乗せてもらいハーベスターの中で音録りをしたり、畑で近づいてくる様子を録ったりと、マイクを持ち構えるが、離れていても音負けしてしまう迫力だ。刈り取ったキビは、トラックに満杯に積まれて製糖工場へ次から次へと運ばれる。普段車がほとんど通らない道路も忙しくなる。『ブーン、ブーンと何台も走っているキビをつんだトラックの音』もまたこの時期独特の音だと島の人は言う。
次は、製糖工場の音を小学校や池、林の中等いくつかの地点できき比べてみる。製糖工場は24時間稼動なので、もくもくと煙が空に上がっていき、シューという蒸気の音を絶えず出し続けている。夜の小学校に行くと、ダイトウオオコウモリの鳴き声でにぎやかな中で、660m程離れた先から製糖工場の蒸気の音がよくきこえる。
時に「プシュー」と大きな音になったりと変化があり、きいていておもしろい。静かな夜に周囲約1.5kmの範囲まで工場の音が響き届く。島の人は、製糖機の音がきこえてくると「工場動いてるなーうれしい」と言う。島が一年の中で最も活気付いている、騒がしくも元気付けられる音なのである。
3月3日のお昼、煙突から煙は消え、工場の音も途絶えた。『製糖期が終わり夜がシーンと静かな時』が再び戻ってきた。本来ならば、12月~3月末までと3ヶ月にわたって製糖期間が続くのだが、今年のキビは台風や雨が少ないなどの悪条件が続き今までにない不作だった。刈り取りの終わった赤茶色の畑には、キビが植え付けられていく春植えの機械の音がきこえる。「ツキンサク‐ツキンサク‐」とプランターに巻き込まれて土の中に落ちていく。来年の製糖期には糖がたっぷりつまったキビが元気に育つようにとの願いを聞き届けてほしい…。